特集

2024年 第21回ショップスタッフディスプレイコンテスト(2024年通年)

2024年 総評 MARDEN 椎野傳一氏
コロナ禍も明けて、一般消費マーケットでも様々なセール、商業イベントや地域のお祭りなどの社会行事も以前の規模に戻って来たように思います。中にはコロナ以前の業績を超える好調企業も目立つようになって来ており、それに伴い昨今の就業状況も好転していますが、逆にそれが小売業界においては人材不足につながるという新たな課題に直面しています。専門店における接客スタッフ不足が販売力の低下を引き起こす大きな要因になっているのは皆さんご存じの通りです。そしてこの問題は将来に向けて解決の糸口さえ見つけられていないのが現状です。そして「ディスプレイは第二の販売員だ」と言われて久しいのに、未だその仕組み作りについて真剣に議論されていないのは不思議なことです。
今こそ専門店は、人だけに頼った店舗運営のやり方に変わる新たな発想や仕組み作りが求められているはずです。 今回で21回目となるJSA大賞ディスプレイコンテストは、コロナ禍を乗り越え、加えてコロナ明けの人手不足という新たな課題解決のために、ディスプレイに対する関心を強めたり見せ方(商品情報の提供方法)の新たな手法を模索したりすることで、例年に比べ著しいディスプレイレベルの向上が見られました。変わらず高いレベルを維持し続けている企業、改めて商品の見せ方の大事さに気付き取り組んだ企業、新しく参加された企業も増え、また新たな学生の皆さんのレベルも数段にアップしました。
今年はホームページを見ての参加企業が二回目でエレガント賞を獲得しましたし、学生さんの作品がアイデア賞を受賞するなど、新しい風が吹いています。また大賞の選出では、いずれか優劣つけられない数店のどれを選ぶか、審査員にとっては嬉しい悩みもありました。
ただ一方では人手不足の影響か、昨年過去最高だった応募店数が減少傾向にあり、「人に頼れない分、見せ方の工夫をしよう」としたお店と、「人がいないから、ディスプレイにまで手が回らない」と諦めてしまったお店とに分かれてしまったのは残念でなりません。
人材不足は店舗販売での重要な接客力の低下につながる大きな問題です。故に接客だけに頼らずお客さまに伝えたいことを、見るだけで伝えられるようにするのがプレゼンテーションです。ひと目で自店の品揃えの特徴や商品情報を理解してもらえるビジュアルなプレゼンテーション(ディスプレイやPOP等)は、特に重要な分野になって行くでしょう。ただ時間や手間のかかるものや、プロにしかできない高度な技術を要するものにしてしまったら本末転倒。これからのプレゼンテーションは、手間やコストをかけずに、誰にでもすぐ簡単にできるものでなければなりません。
そういう意味で、今年度(6/4スタート)の実務者研修では、昨年のテーマであった「何を伝えるか?」に加え手間をかけずに時短を意識し、かつ新人スタッフでもすぐ簡単にできるポイントをテーマにカリキュラムを編成しました。
今年も受賞作以外のディスプレイにも、ご希望があればフィードバックコメントによる具体的なアドバイスを差し上げたいと思っていますので、是非ご活用ください。
2024年受賞作品

大賞 ワシントン靴店 銀座本店
靴店の課題になる靴箱の処理を演出ツールとして活用した秀逸なディスプレイです。
店頭に陳列される靴の数だけその空箱が存在しますが、靴箱を売場内に漫然と置いているだけでは、商品より大きい箱の方が目立ち、どうしても売場が雑然とした印象になってしまいます。売場をすっきりと見せ、商品にスポットを与えるようにするためにどの靴店も苦労をしているのです。
このディスプレイではその靴箱をあえて演出物としてクローズアップし、アイキャッチャーとして活用している点を評価しました。元々売場にある靴箱ですから費用はゼロです。それを包装紙で包みリボンを掛けただけで極めてローコストな演出物になっています。加えて包装紙とリボンの色を鮮やかなピンクに統一したことで、コーナー自体のインパクトも増すことにも成功しています。

優秀賞 新宿高野 新宿本店
食品の演出で最も大事なのが季節感=旬の表現です。
ホワイトデーギフトの演出にもかかわらず、ギフトイメージ(ラッピングやリボン使い)に拘らず、桜をメインにイメージ作りをして春の季節感を前面に押し出しているのが成功しています。コーナー全体を淡いピンクをメインにまとめた色使いは、扱い商品の中からテーマとなる色のアイテムやパッケージを探し出し、組み合わせて行くというスタッフのきめ細かな努力が見て取れます。上部に設置したシンプルな「WHITE DAY」のPOPも商品の邪魔をせず、程よいアクセントになっています。

アイデア賞 杉野学園ドレスメーカー学院 購買部
どこにでもあるようなワイヤーハンガーを活用してお客さまの興味を引くアイデア一杯のディスプレイになっています。
白いハンガーを使いグリーンのバックにしたことで、クリスマスツリーのイメージが出来上がりました。トップに付けた星に当てたスポットライトの効果も遠目からのインパクト大です。 特に良かったと思うのは、ハンガーが単なる演出ツールとしてだけじゃなく陳列器具としての役割を果たしていることです。訴求商品をツリーのオーナメントに見立てた工夫にも高い評価を与えたいと思います。 学生さんたちのアイデアと商品を含めた構成力の高さに感心しました。

エレガント賞 秀和 AYANOKOJIコトチカ京都店
洗練された大人の魅力を感じさせるディスプレイです。
ネイビー、ブラウン、ホワイトで纏められた空間はまさに大人のエレガンスだと審査員全員に共通した評価でした。余分な色目が存在しないことでより洗練さが増しています。 また各アイテムのモチーフである星や月に合せて、天球儀や天体図を配して夏の夜空を摸したコーナー演出は訴求商品のイメージの向上に大いに役立っています。訴求商品の着想感を横に立つトルソーのワンピースがより際立てていることは間違いないでしょう。

空間構成賞 イワキ 六本木ヒルズ店
縦方向に伸びる空間の構成力は今回の応募作の中では群を抜いています。
訴求商品であるメガネやキューブのギフトボックス、メガネケースに加え、メッキボール、ブランドサインなど、皆小さく細かなものをバランスよく配置し全体をひとつのオブジェのようにまとめ上げたのは、極めて優れた空間センスの表れだと感じます。シンプルなフレームの使い方も上手、高さを付けた手のオブジェも効果的ですし、加えてケースやフレームの赤もアクセントとして効いています。

入賞 イワキ イワキメガネ玉川高島屋SC店
訴求商品以外の色調を白に統一したことで、商品自身がより際立つ効果が期待できるディスプレイです。
商品の背景を白一色に限定し、それぞれの商品の色をアクセントカラーとして使用することで、お客さまの目を訴求商品自体に集中させる効果の向上を狙う好例です。 非対称にしたシンプルな3つの白のフレームの中に、円錐形のオブジェをアトランダムに配すことで、全体に動きを表現することでお客さまの目を引く効果ができます。

入賞 銀座マギー 二子玉川本館店
夏を感じさせる濃いブルーを基調としたインパクトのあるディスプレイです。
ステンドグラスをモチーフにしたオリジナルプリントのアイテムを、ステンドグラスをイメージした床と星形のオブジェやポスターフレームを使うことで、光を感じさせる演出になっています。訴求商品のイメージとマッチした演出ツールの効果は絶大です。

入賞 ジー・エム・ティー Tricker's青山店
靴が大好きな層の好奇心をくすぐる高レベルなディスプレイと言えます。
同一アイテムのエイジングサンプルを現行品と並べて商品の経年変化を見せることで、長い間引き続けられる高品質な本格靴であることを表現している、ち密に計画された上質なプレゼンテーションが実現しています。良いものを永く愛用しようとする上質なお客さまの購買意欲を掻き立てることは間違いありません。

入賞 ホットマン 池袋東武店
タオルの絵柄のイメージと演出ツールが上手くマッチした効果的なディスプレイです。
絵柄の持つメルヘンなテイストと、絵本に出てくるようなウッディな家と汽車の持つ温かみを感じさせる演出小物が、商品の魅力をより引き出せていると感じます。またテーブルや演出物に至るまで、色目を白や淡いベージュに統一したことで、商品のクリスマスカラーがより際立って見えます。

入賞 メーカーズシャツ鎌倉 ラゾーナ川崎プラザ店
無地のポロシャツ(メンズ)やクラシックなプリントのノースリーブシャツ(レディス)の訴求ですが、双方の色調がリンクしていることで、ステージ全体のまとまりができています。
ナチュラルな雰囲気のソファーカバーや後方のタペストリーがファミリーでリビングでくつろいでいるシチュエーションを的確に表現できています。

入賞 メルボメンズウェア 麻布テーラー名古屋駅店
ツイードの持つクラシックで本格的なテイストを、三様のジャケット&パンツスタイルで表現した上質なディスプレイです。
三体ともモノトーンで色調が統一されていることと、ボディの前にあるテーブルにあるタイ、セーター、手袋、マフラーが皆コディネートのバリエーションとしても使えるもので揃えてあるので、複数購買が期待できる訴求になっています。

入賞 山野楽器 銀座本店
本物かつ上質であることをひと目で感じさせ、自店の一押し商品であることをストレートに表現したディスプレイです。
一点集中、商品を大切に扱っているということがしっかりと伝わって来ますし、演出物やPOP等の販促物に頼らず、商品そのものの魅力を見せようという意図が感じられます。黒をバックに鮮やかな赤を活かすことでより高級感も表現できています。

入賞 ルピシア ららぽーと船橋店
紅茶を和の雰囲気で演出する、話題性が期待できるプレゼンテーションです。
紅白を主体に緑をアクセントにした色調はいかにも新春を感じさせるフレッシュなコーナー作りができています。この雰囲気ならば、紅茶と日本茶を同時に訴求することもでき、販促効果の高い展開になっています。最上段、だるまの上の扇子はムービングPOPになっていて、左右に動くことで遠目からのアイキャッチャー効果も期待できます。